見事な弾き振りを披露──そんなキャッチが誉め言葉になる演奏ではない。協奏曲の美しきフォルムに寄り添いつつ、調べの変幻を自分の言葉で表現しようとする意志、姿勢。そんな美学を可能にする鮮やかなメカニック、音楽上のテクニック。クールな遊び心。誤解を恐れずに言えば、臆せずに歌う。でも歌に溺れない。響きはどこまでも明晰。今どきのロマンティストの演奏である。